皆さんこんにちは!
蒲生相続相談センター、司法書士のほんじょうです。
今日は、2020年4月1日から始まった配偶者居住権について話していきたいと思います。
え?配偶者居住権って何?!
って声が聞こえてきましたね。
新しい制度なので、ご存じない方もたくさんおられるかと思います。
記事のなかでも触れていきますが、この制度は少し複雑で、手続きも難しいところがあります。
専門家への相談をおすすめする制度の一つだとも言えますので、この記事を書こうとも思いました。
できるだけ難しい単語を省いて書いていこうと思います。
では、配偶者居住権についてご説明しますね!
レッツゴー!
配偶者居住権は、自宅を所有していた方の戸籍上の配偶者の方が、お亡くなりになるまで住むことが出来るように定めた制度です。
配偶者居住権とは、ようは当事者の戸籍上の配偶者(旦那さまや奥さま)が所有していた自宅に住めるようした制度です。
これを聞いて、
「なんでまた、そんな当たり前のことを制度化したん?」
と疑問に思った方もたくさんいらっしゃると思います。
だってうちのおばあちゃん、死んだおじいちゃんの家に住んでるし。
周りの人らもそんな感じやし、普通のことやん。
そう考えた方もいらっしゃるでしょう。
でも実は、これはもう当たり前ではないんです。
そしてこの考え方が、なぜ配偶者居住権という制度が出来たのか?ということにも繋がります。
配偶者居住権が作られた背景には、2013年9月に最高裁大法廷が示した判断があるとされています。
この裁判では、遺産分割について争われました。
結果として、結婚していない男女のあいだに生まれた「婚外子」と、結婚した男女のあいだに生まれた「婚内子」で、遺産の取り分が違うのは「法の下の平等を定めた憲法に反する」となりました。
つまり、婚外子にも婚内子と平等に相続する権利があると認めたということです。
これを受け、婚外子が婚内子と同じ割合で財産を相続することになると、夫に先立たれた妻は、場合によっては遺産を分けるために住んでいる家を手放さないといけなくなるかもしれません。
そのため、配偶者を保護する必要がある、という考えが生まれました。
この考えが配偶者居住権の制度を作る「もと」、となりました。
亡くなるまで添い遂げた配偶者の所有物である家に自分が住めなくなる。
もしそれを知ったとき、あなたならどうでしょう。
困惑する方もいれば、怒りを覚える方もいらっしゃると思います。
ずっと一緒に住んでいた家に住めない道理を教えてほしい…と感じても間違いはありません。
ただ、やはり社会は多様化してきています。
社会が変われば、法律も変わる。
生きている人がいるからこそ、新しい制度ができるのです。
そのなかで、なんらかの理由があり、配偶者の所有する住居を手放さなければならなかった人の住む権利を守ろうとしてできたのが、配偶者居住権です。
配偶者居住権を設定するとき
では、配偶者居住権を設定するときは、どんな境遇にあるときなのでしょうか。
例えば、夫婦二人で持ち家に住んでいた場合、被相続人が亡くなった後、配偶者が持ち家を相続するのが一般的です。
ただ、子ども夫婦と同居していて、なおかつ相続人である配偶者と折り合いが悪い場合は、相続でもめて子ども夫婦から「出て行って欲しい」と言われてしまう可能性があります。
そんなとき配偶者居住権を利用すれば、配偶者はそのまま自宅に住み続けることができ、住まいを追われる心配はなくなります。
自分の子どもやその家族と仲が悪くても、住居の確保ができていると安心しますよね。
自分が亡くなるまで住む家があるのとないのでは、心の持ちようも変わってきます。
ただ、物事はなんでもメリットとデメリットが存在します。
配偶者居住権を使って、家は確保できても…という、デメリットの部分も、もちろん出てきます。
では、次項から配偶者居住権のメリット・デメリットについて、お話しさせていただきます。
配偶者居住権のメリット・デメリット
まず配偶者居住権のメリットについて、述べていきたいと思います。
メリット
①現在の家に住むことができる
長年住んでいた自宅を、高齢になって離れなければいけなくなるのは、とても悲しいことです。
なので、配偶者居住権を利用し居住権を得れば、お亡くなりになるまで住むことができるようになります。
思い入れのあるお家に住むことができるというのは、一番のメリットではないでしょうか。
②財産の取り分が減らない
被相続人が亡くなり、特別な遺言書がない限り、財産は法定相続人である配偶者に財産の1/2、残り1/2を子どもが等分に分ける決まりになっています。
持ち家も、その時点での資産価値を出したうえで、財産のひとつとして相続されることになります。
さらに不動産の所有権は価値が高いため、家を相続すると、その他の財産の取り分が大幅に減少します。
たとえば、夫が6,000万円(自宅2,500万円、預金3,500万円)の財産を遺して亡くなり、妻と子ども2人が遺産を相続するとします。
この場合は、遺産の1/2にあたる3,000万円を妻が受け取り、2人の子どもはそれぞれ1,500万円ずつ分与されることになりますが、妻が自宅を相続した場合は、預金として受け取れるのは
3,000万円-2,500万円=500万円
のみとなります。
不動産を処分して現金を分配するという方法もありますが、その場合は長年親しんだ自宅を手放すことになり、配偶者は
「自宅か、お金か」
という問題に直面するのです。
しかし配偶者居住権を利用すれば、妻は不動産の所有権ではなく、不動産の居住権を相続することになります。
配偶者居住権の価値は、
「建物敷地の現在価値」-「負担付所有権の価値」
で算出します。
さあ、専門的な単語がたくさんでてきましたね!
何を言っているのかわからない!それは、あなただけではない!
ということでまず、
「建物敷地の現在価値」
からご説明します。
建物敷地の現在価値は、字のごとく、建物と敷地の現在価値です。
次に
「負担付所有権の価値」
についてです。
負担所有権とは、配偶者居住権を得た配偶者が居住する建物や敷地の所有権のことです。
そのため、負担所有権の価値は、建物の耐用年数・築年数・法定利率を考慮し、かつ配偶者居住権の負担が消滅した時点の建物敷地の価値を算定したうえで、これを現在価値に引き直して求めることができます。
配偶者居住権は、配偶者が死亡した時点で消滅するため、配偶者が自宅に一生涯住むことを前提として、平均余命までの年数などをもとに計算することになりますが、たとえ年数が少ない場合でも、不動産の所有権より価値が上になることはありません。
先ほど挙げたケースにて、不動産居住権が仮に1,000万円となった場合、配偶者は
3,000万円-1,000万円=2,000万円
を受け取ることが可能となり、配偶者居住権を利用しない場合と比較すると1.500万円も多く預金を相続できるようになります。
③代償金リスクが減る
先ほどのケースでは
配偶者の相続分>不動産の評価額
でしたが、逆に不動産の評価額が配偶者の相続分より多い場合、配偶者は他の被相続人に対して代償金を支払う義務を負います。
たとえば6,000万円の遺産のうち、不動産が4,000万円を占めている場合、配偶者の相続分は3,000万円ですので、自宅を相続すると1,000万円余計に相続することになります。
自宅を処分して分けるという方法もありますが、もし配偶者がそのまま自宅に住み続けたいと希望した場合は、余分に相続した1,000万円を自ら用意し、2人の子どもたちに代償金として支払わなければなりません。
現行法では、自宅を相続した時点で配偶者には預金の取り分がなくなってしまうので、現実的には多額の代償金を用意するのは難しく、泣く泣く自宅を手放すという方も少なくありません。
しかし配偶者居住権を行使すれば、不動産所有権より相続する価値が下がるので、代償金を支払わずに済む可能性が高くなります。
先ほどのケースで、仮に不動産居住権が2,000万円と算定されたとき、
3,000万円-2,000万円=1,000万円
となり、代償金を支払うどころか1,000万円の預金まで相続できます。
もちろん、子どもが不要と言えば代償金を支払わずに済みますが、法定相続分以上の財産を受け取るのは気が引けるという方も多いので、配偶者居住権の利用によって代償金リスクが減るのは大きなメリットとなります。
デメリット
これまで、配偶者居住権のメリットについて記述しました。
メリットだけ聞いていると、良いこと尽くめのように見えます。
しかしながら配偶者居住権にも、デメリットが存在します。
では、配偶者居住権のデメリットについて触れていきましょう。
①不動産の譲渡・売却はできない
配偶者居住権は、あくまで「家に住む権利」であるため、不動産所有権のように物件を譲渡したり、売却したりする権利はありません。
配偶者居住権を行使するというのは、その家に住む意向があると示すことなので当面は問題が起こる心配はありませんが、途中で「老人ホームに入居するから自宅を売りに出したい」と希望しても、配偶者自身が自宅を譲渡・売却することはできません。
一方、自宅の所有権を持つ人間(仮に子どもとします)なら、譲渡・売却を行うことが可能ですが、当該物件には配偶者居住権が設定されているため、第三者が購入したとしても実際に住むことはできません。
特に問題となるのが、親が認知症になり、病院または施設に入らざるを得なくなったケースです。
配偶者居住権は原則として、事前に定められた配偶者居住権の存続期間が終了するまで存続しますが、特に期間を定めなかった場合は配偶者が死亡するまで権利は有効となります。
つまり、実際に配偶者が住んでいなくても、配偶者が生存しているうちは居住権がなくなることはありません。
例外として、配偶者自身が配偶者居住権を放棄した場合は、権利を消滅させることが可ですが、認知症になった配偶者に居住権の放棄をさせるのは難しくなります。
これらのことを踏まえると、物件の所有者である子どもは、居住権を持つ親が死亡しない限りは、実質的に物件の譲渡・売却ができず、自宅をもてあましてしまう可能性が高くなります。
②所有者の税負担が大きい
固定資産税は通常、不動産所有者に課税されることになっていますが、改正相続法においては配偶者居住権を取得した方には、建物の通常の必要費を負担する義務を負うことが明記されています。
固定資産税もこの必要費に含まれますが、支払い義務を負うのはあくまで「建物」に関する税のみとなり、敷地の固定資産税については不動産所有者が負担する可能性は大きくなります。
所有者にとっては、自分たちが住んでいない土地の固定資産税を支払うことになるため、不服や不満を感じやすくなります。
③配偶者の年齢によっては手元に残るお金が少なくなる
配偶者居住権の価値は、居住権の存続年数=平均余命年数が長ければ長いほど、高くなります。
つまり配偶者の年齢が若いと、居住権の価値も相対的に高くなり、その結果、居住権以外に相続できるお金が少なくなってしまいます。
配偶者居住権の本来の目的は、自宅を相続すると他の遺産の取り分が少なくなるという問題を解消することにあるのですが、配偶者の年齢によっては居住権利用の恩恵が少なくなってしまうのが難点です。
④配偶者居住権を利用できるのは法律上の配偶者のみ
昨今は結婚のあり方が多様化し、あえて婚姻関係を結ばず、事実婚を選ぶ人たちが増えています。
ただ、内縁の夫・または妻には相続権が与えられていません。
どれだけ社会のあり方が変わり、法律が変わったとしても、配偶者というのは戸籍上の配偶者のみをさします。
配偶者居住権は、あくまで被相続人の配偶者が利用できるものなので、事実婚や内縁配偶者は対象外となります。
ただ、かつて内縁の妻に居住権が認められたというケースも存在するため、事実婚であっても配偶者居住権を利用できる可能性はゼロではありません。
しかしながら、正式に法案に盛り込まれていない以上は、内縁の夫や妻が居住権を取得するのは容易なことではないと言えます。
配偶者居住権は相続トラブルを回避する制度
今までのお話から結論から申し上げますと、配偶者居住権の制度は、家族がもめなければ使用することもないのかもしれません。
しかし、配偶者居住権の制度が出来た背景には、親と子のトラブルを前提として考えられています。
相続トラブルなど、我が家にはないと思っておられるかもしれませんが、今は西暦2022年で令和です。
大家族で子を親を敬い、長子が兄弟の面倒を見ることが普通であった時代の相続は、「昔」のことなのです。
核家族化がすすみ、親と子でも離れて暮らすことが増えました。
親のため・子のため・きょうだいのための相続は、少なくなっているように思います。
社会も変われば、法律も変わり、家族のあり方も変わる。
他人ごとと思わず、相続トラブル回避のために出来た制度を、大いに利用していただければと考えています。
今回のお話は以上です。