相続の借金を漏れなく調べる方法|司法書士が解説する調査手順

身内が亡くなり、悲しみに暮れる間もなく相続手続きに追われる中で、「故人に借金があったらどうしよう」という不安を抱えていませんか。
相続放棄には3ヶ月という期限があり、その間に負の遺産も含めて全体像を把握しなければなりません。
この記事では、ご自身でできる借金の調査方法から、信用情報機関への具体的な照会手順、そして調査結果に基づいた相続方法の選択肢まで、司法書士が網羅的に解説します。

この記事を読めば、信用情報機関への照会方法や遺品のチェックポイントを理解し、相続放棄すべきかどうかの判断を期限内に下せる状態になります。

目次

まずは全体像を把握!相続の借金調査を4ステップで徹底解説

まずは全体像を把握!相続の借金調査を4ステップで徹底解説

故人の借金を正確に把握するための調査は、大きく4つのステップで進めます。
まずは手元にある資料から借金の痕跡を探し、次に公的な信用情報機関へ照会して網羅的に確認します。
さらに、信用情報には載らない個人間の借金や税金の滞納などを調べ、最後にすべての調査結果をもとに、相続方法を決定するという流れです。

この手順に沿って進めることで、抜け漏れなく借金の全体像を把握できます。

ステップ1:自宅でできる遺品整理から借金の痕跡を見つける

相続における借金調査の第一歩は、故人の遺品整理から始まります。
金融機関からの郵便物や預金通帳、クレジットカードの明細など、身近な書類には借金の存在を示す重要な手がかりが隠されている可能性があります。
遺品整理は、遺産の内容を把握する上でも欠かせない作業です。

まずは故人の自宅や身の回りを丁寧に確認し、負債に関連する書類がないか探してみましょう。
遺品整理で手がかりが見つからなくても、より確実な方法で調査を進めることができます。

督促状や契約書が届いていないか?郵便物を確認する

故人宛ての郵便物は、借金の存在を知るための重要な手がかりです。
特に、消費者金融やクレジットカード会社、銀行などからの督促状や利用明細書は、直接的な証拠となります。
また、金融機関からのダイレクトメールなども、故人が過去に取引をしていた可能性を示唆します。

亡くなった後も届く郵便物は、最低でも3ヶ月から半年程度は保管し、内容をしっかり確認することが重要です。
開封していない郵便物も必ず中身を改め、契約書や借用書が同封されていないか確かめましょう。

不審な引き出しや返済履歴がないか?預金通帳を精査する

故人の預金通帳は、お金の流れから借金を推測するための貴重な資料です。
定期的に一定額が引き落とされている場合、それはローンの返済である可能性が高いです。
摘要欄にカード会社やローン会社の名前が記載されていれば、有力な手がかりになります。
また、ATMから頻繁にキャッシングで現金を引き出した形跡がないかも調査のポイントです。

不自然な入出金がないか、過去数年分に遡って通帳の履歴を精査し、借金の返済先や借入先を特定しましょう。

キャッシングの利用履歴はないか?クレジットカードの明細を調べる

クレジットカードは、ショッピングだけでなくキャッシング(現金の借入)にも利用されるため、負債の有無を調べる上で見逃せません。
故人が所持していたクレジットカードの利用明細書を確認し、キャッシングの利用履歴やリボルビング払いの残高がないかを調査します。
明細書が見つからない場合は、カード裏面に記載されているカード会社に連絡し、相続人であることを伝えた上で、負債の有無や金額について問い合わせることが可能です。

見落としがちな連帯保証の契約書がないか探す

故人が誰かの借金の「連帯保証人」になっていた場合、その債務も相続の対象となります。
連帯保証債務は、主債務者が返済不能になった際に、保証人が代わりに返済義務を負うものです。
連帯保証債務は、その性質上、被相続人の債務として発見が難しい場合があります。

金銭消費貸借契約書の控えや、保証契約書などの書類が自宅に保管されていないか、念入りに調査する必要があります。
親しい友人や知人との間で、保証人になっていないか確認することも有効な手段です。

ステップ2:3つの信用情報機関に照会して借金の全容を把握する

ステップ2:3つの信用情報機関に照会して借金の全容を把握する

遺品整理だけでは、故人が契約していたすべての借金を把握することは困難です。
より正確かつ網羅的な調査を行うためには、信用情報機関への情報開示請求が不可欠です。
信用情報機関には、個人のローンやクレジットカードの契約内容、返済状況などが登録されています。

相続人であれば、亡くなった方の信用情報を照会することが可能です。
これにより、故人がどこから、いくら借金をしていたのか、その全体像を客観的なデータで把握できます。

CICでわかる借金|クレジットカードや消費者金融のローン

株式会社シー・アイ・シー(CIC)は、主にクレジット会社の共同出資によって設立された信用情報機関です。
クレジットカードの契約内容やショッピング・キャッシングの利用残高、信販会社が提供するローンの情報などが登録されています。

スマートフォンの分割購入代金の残債などもCICで調査できます。
クレジットカードや信販系のローンについて調べる際に、CICへの開示請求は信用情報を確認する有効な手段の一つです。

JICCでわかる借金|主に消費者金融からのキャッシング

株式会社日本信用情報機構(JICC)は、主に消費者金融会社が加盟している信用情報機関です。
消費者金融からのキャッシングやカードローンに関する情報が重点的に登録されています。
もし故人が複数の消費者金融から借り入れをしていた場合、JICCに情報を開示請求することで、その契約内容や残高を調査できます。

信販会社や銀行も一部加盟しているため、広範囲の借金情報をカバーすることが可能です。

KSC(全銀協)でわかる借金|銀行ローンや住宅ローン

全国銀行個人信用情報センター(KSC)は、一般社団法人全国銀行協会(全銀協)が運営する信用情報機関です。
その名の通り、銀行や信用金庫、信用組合、農協などが加盟しており、住宅ローンや自動車ローン、カードローンといった銀行系の借入情報が登録されています。
故人が銀行から大きな融資を受けていた可能性を調査する場合、KSCへの照会が極めて重要になります。

相続人が信用情報を開示請求するための具体的な手続きと必要書類

相続人が亡くなった方の信用情報を開示請求する場合、一般的に郵送での手続きとなります。
各信用情報機関のウェブサイトから申込書をダウンロードし、必要事項を記入します。
提出する必要書類は、主に以下の通りです。

故人が亡くなったことがわかる戸籍謄本
請求者が相続人であることがわかる戸籍謄本
請求者の本人確認書類
手数料
機関によって必要書類や手数料が異なるため、事前に各ウェブサイトで詳細を確認してから手続きを進めることが重要です。
この調査によって、金融機関からの借金のほとんどを把握できます。

ステップ3:信用情報機関に載らない借金や滞納がないか確認する

ステップ3:信用情報機関に載らない借金や滞納がないか確認する

信用情報機関への照会で判明するのは、主に金融機関からの借金です。
しかし、個人間の借金や税金の滞納、誰かの連帯保証人になっているといった債務は、信用情報には登録されません。
これらの「見えない借金」も相続の対象となるため、別途確認作業が必要です。

遺産の中に不動産が含まれる場合は、登記情報の確認も欠かせません。
こうした補完的な調査を行うことで、負の遺産の全体像がより明確になります。

不動産登記簿謄本で「抵当権」の有無をチェックする

故人が不動産を所有していた場合、法務局でその不動産の登記事項証明書を取得して内容を確認します。
登記簿の「権利部」という欄に、「抵当権」や「根抵当権」といった記載があれば、その不動産を担保にして金融機関などからお金を借りている証拠です。

住宅ローンなどが典型例です。
登記事項証明書の調査により、債権者と債権額を確認することができます。

役所に問い合わせて税金や社会保険料の滞納を確認する

固定資産税や住民税などの税金、国民健康保険料や年金保険料といった社会保険料の滞納も、相続の対象となる負債です。
これらは信用情報機関には登録されないため、故人が住んでいた市区町村の役所に直接問い合わせて確認する必要があります。
相続人であることを伝え、納税通知書や督促状が届いていないか、未納分がないかを照会しましょう。

特に不動産を相続する場合は、固定資産税の滞納がないか必ず確認が必要です。

知人からの借金や個人間の金銭トラブルの手がかりを探す

友人や知人、親族からの個人的な借金は、公的な記録が残らないため最も発見が難しい負債です。
調査の手がかりとなるのは、故人の遺品の中に残された書類やデータです。
借用書や念書、金銭消費貸借契約書はもちろんのこと、日記や手帳、メール、LINEのやり取りなどに、金銭の貸し借りを示唆する内容が残されている場合があります。

心当たりがある人物がいれば、直接尋ねてみることも一つの方法ですが、慎重な対応が求められます。

ステップ4:調査結果をもとに3つの相続方法から最善策を選択する

ステップ4:調査結果をもとに3つの相続方法から最善策を選択する

すべての調査が完了し、プラスの財産(預貯金、不動産など)とマイナスの財産(借金)の総額が判明したら、次にどの相続方法を選択するかを決定します。
相続方法には、すべての遺産を引き継ぐ「単純承認」、一切の遺産を放棄する「相続放棄」、そしてプラスの財産の範囲内で借金を返済する「限定承認」の3種類があります。
それぞれのメリット・デメリットを理解し、自身の状況に最も適した選択をすることが重要です。

借金より財産が多い場合に選ぶ「単純承認」

単純承認とは、亡くなった方の権利や義務をすべて無条件で受け継ぐ相続方法です。
調査の結果、借金などの負債を差し引いても、預貯金や不動産といったプラスの遺産の方が多い場合に選択するのが一般的です。

特別な手続きは必要なく、相続の開始を知った時から3ヶ月以内に相続放棄や限定承認の手続きをしなければ、自動的に単純承認したことになります。
ただし、後から予期せぬ多額の借金が発覚しても、原則として返済義務を免れることはできません。

借金の方が明らかに多い場合に選ぶ「相続放棄」

相続放棄は、プラスの財産もマイナスの財産も一切引き継がないという意思表示を家庭裁判所に行う手続きです。
調査の結果、プラスの遺産よりも借金の方が明らかに多い場合に選択します。
相続放棄が認められると、その相続人は初めから相続人ではなかったことになります。

そのため、故人の借金を返済する義務は一切なくなります。
ただし、相続放棄をすると預貯金や不動産といったプラスの財産も受け取れなくなる点に注意が必要です。
この手続きは、原則として相続の開始を知った時から3ヶ月以内に行わなければなりません。
相続放棄についてさらに詳しくは「相続放棄で借金は誰が払う?できないケースとデメリット」で詳しく紹介しています。

財産と借金のどちらが多いか不明な場合に選ぶ「限定承認」

限定承認は、相続によって得たプラスの遺産の範囲内でのみ、故人の借金などの負債を返済するという相続方法です。
財産調査を尽くしても、借金の総額がはっきりしない場合や、どうしても手放したくない遺産がある場合に有効な選択肢となります。
ただし、手続きが非常に複雑で、相続人全員が共同で家庭裁判所に申し立てる必要があるなど、ハードルが高いのが実情です。

利用されるケースは限定的ですが、状況によっては最適な方法となり得ます。

借金調査中に絶対にしてはいけない!相続放棄できなくなるNG行為

借金調査中に絶対にしてはいけない!相続放棄できなくなるNG行為

借金の調査を進めている間は、自身の行動が法的にどのような意味を持つかを慎重に判断する必要があります。
相続財産の状況が確定する前に特定の行為をしてしまうと、借金を含めたすべての遺産を相続する意思があるとみなされ、後から相続放棄ができなくなる可能性があります。
特に注意すべきNG行為を理解し、調査が完了するまでは故人の財産に不用意に手を出さないことが重要です。

そうしないと、後で相続放棄を選択する道が閉ざされてしまうかもしれません。

故人の預貯金を引き出して使用する

故人の預貯金口座から現金を引き出して、自分のために使ったり、生活費に充てたりする行為は、遺産を相続したとみなされる典型的な例です。
たとえ少額であっても、相続財産を処分したと判断され、単純承認が成立してしまいます。
ただし、社会通念上相当な範囲で葬儀費用を支払うために引き出すことは、例外的に認められる場合がありますが、判断が難しいため、可能な限り自己資金で立て替え、後から遺産で精算するのが安全です。

調査が完了するまでは、口座には一切手をつけないのが原則です。

価値のある遺品を売却・処分する

故人が所有していた自動車や貴金属、骨董品、ブランド品など、財産的価値のある遺品を売却したり、誰かに譲ったりする行為も、相続財産を処分したとみなされ、単純承認が成立する原因となります。
形見分けのつもりでも、その品物に客観的な価値がある場合は注意が必要です。
価値があるかどうか判断に迷うものについては、調査が完了し、相続方法を決定するまで現状のまま保管しておくべきです。

価値のない家財道具などの処分は問題ありませんが、その判断は慎重に行う必要があります。

借金の一部を返済してしまう

故人の借金の債権者から督促を受け、良かれと思って借金の一部を故人の遺産から返済してしまうと、債務の存在を認めて相続したことになり、単純承認が成立します。
たとえ相続財産からではなく、自分自身の財産から返済した場合でも、同様にみなされるリスクがあります。
債権者から連絡があった場合は、現在相続人として財産調査中であり、相続放棄も検討している旨を伝え、支払いを待ってもらうように交渉しましょう。

安易な返済は絶対に避けるべきです。
NG行為を避けるためにも、専門家への相談が有効です。

相続放棄の期限は3ヶ月!調査が間に合わないときの期間伸長手続き

相続に関する最大の注意点は、相続方法を決定するための「熟慮期間」が原則として3ヶ月しかないことです。
この期間内に借金調査を終え、単純承認、相続放棄、限定承認のいずれかを選択しなければなりません。
しかし、相続財産の調査に時間がかかり、3ヶ月では判断が難しいケースも少なくありません。

そのような場合には、家庭裁判所に申し立てることで、熟慮期間を延長することが可能です。
期限切れで不本意な相続をしないためにも、この制度を正しく理解しておくことが重要です。
相続放棄を検討すべきタイミングについては「相続放棄はいつ検討すべき?失敗しないための判断ポイント」で詳しく紹介しています。

「相続の開始を知った時」から起算される熟慮期間とは

相続放棄や限定承認の手続きができる3ヶ月の熟慮期間は、単に「被相続人が亡くなった日」から数え始めるわけではありません。
法律では「自己のために相続の開始があったことを知った時」から起算すると定められています。
具体的には、「被相続人が亡くなった事実」と「それによって自分が相続人になった事実」の両方を知った時を指します。

疎遠だった親族が亡くなった場合など、死亡の事実を後から知った場合は、その知った日から3ヶ月となります。
この起算点の理解は、放棄の期限を考える上で非常に重要です。

家庭裁判所へ申し立てる「相続放棄の期間伸長」の方法

借金の調査が3ヶ月の熟慮期間内に終わりそうにない場合、期間が満了する前に、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に対して「相続の承認又は放棄の期間伸長の申立て」を行うことができます。
申立てが認められれば、通常1〜3ヶ月程度の期間延長が認められます。
申立書には、期間延長が必要な理由を具体的に記載する必要があります。

期限が迫っている場合は、早めに手続きに着手することが肝心です。

まとめ

故人の借金を調べるには、まず遺品整理から始め、次に信用情報機関へ照会し、最後に個人間の借金や滞納の有無を確認するというステップを踏むことが重要です。
調査結果に基づき、プラスの財産と借金のどちらが多いかを比較し、「単純承認」「相続放棄」「限定承認」のいずれかを選択します。
この判断と手続きは、原則として相続開始を知ってから3ヶ月以内に行う必要があります。

調査中に遺産を使ってしまうと相続放棄できなくなるため注意が必要です。
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