
相続が発生すると、戸籍謄本の取得費用や不動産の名義変更(相続登記)にかかる登録免許税、専門家への報酬など、さまざまな費用が発生します。
これらの費用を誰がどのように負担するかは、相続人同士でトラブルになることも少なくありません。
相続手続きを円滑に進めるためには、費用負担に関するルールや一般的な分担方法を事前に理解しておくことが重要です。
この記事では、税理士や司法書士に支払う報酬をはじめ、各種相続費用を誰が払うべきか、その負担割合や一般的な考え方について解説します。
相続費用の負担者に法律上の決まりはない!まずは相続人間での話し合いが基本
相続手続きにかかる費用の負担者について、民法などの法律で明確な定めはありません。
誰がどの費用を支払うかについては、法律上の義務がないため、相続人全員で話し合って決めるのが基本です。
一般的には、遺産分割協議の際に、遺産の分け方とあわせて費用負担の方法についても合意を形成します。
話し合いで決まった内容は、後のトラブルを防ぐために遺産分割協議書に明記しておくことが大切です。
まずは、どのような費用が発生するのかを把握し、誰がどのように負担するのが公平か、全員で協議しましょう。
相続手続きを放置した場合のリスクについては「相続手続きを放置するリスク」で詳しく紹介しています。
誰が払う?相続費用の3つの主な負担パターン
相続費用の負担方法に法的な決まりはありませんが、実務上はいくつかのパターンに分類されます。
代表的な負担方法は、「故人の遺産から支払う」「相続分に応じて分担する」「財産を取得した人が個別に支払う」の3つです。
例えば、不動産の名義変更に必要な相続登記の費用は、その不動産を取得する人が負担するのが一般的です。
登記は不動産の権利を保全するための手続きであるため、利益を受ける人が費用も負担するという考え方が合理的とされています。
パターン①:故人の遺産(相続財産)から支払う
相続人の自己負担をなくし、公平性を保ちやすい方法として、故人が遺した預貯金などの遺産から費用を支払うパターンがあります。
この方法であれば、特定の相続人に負担が偏ることがなく、スムーズに合意しやすいでしょう。
相続税申告にかかる税理士報酬や、遺産分割協議書の作成費用など、相続人全員に関わる費用を支払う際によく用いられます。
ただし、金融機関の口座は名義人の死亡により凍結されるため、遺産から支払うためには、相続人全員の同意を得て預貯金の払い戻し手続きを行う必要があります。
パターン②:相続人が取得する遺産の割合に応じて分担する
相続人がそれぞれ取得する遺産の割合に応じて費用を分担する方法も公平な負担パターンの一つです。
多くの財産を受け取る人ほど多くの費用を負担することになるため、相続人間の不公平感を解消しやすいメリットがあります。
特に、相続トラブルで弁護士に依頼した場合の報酬や、高額な相続税が発生した場合の税理士報酬など、専門家への支払いが高額になるケースで採用されることが多いです。
この方法を採る場合は、費用の総額と各相続人の負担額を正確に計算し、全員の合意を得ておくことが重要です。
相続トラブルになりやすい兄弟間の争いについては「兄弟間でよく起こる相続トラブルと対策」で詳しく紹介しています。
パターン③:財産を相続した人が個別に支払う
特定の財産を取得した相続人が、その財産に関連する手続き費用を個別に支払う方法です。
例えば、不動産を相続した人が相続登記費用(登録免許税や司法書士報酬)を負担する、自動車を相続した人が名義変更費用を負担するといったケースが該当します。
これは、その財産から利益を受ける人が関連費用も負担するという考え方に基づいています。
ただし、葬儀費用のように誰が負担すべきか明確でない費用については、喪主が一旦立て替えた後、他の相続人と話し合って精算方法を決めるのが一般的です。
【費用別】相続手続きでかかる費用の内容と一般的な負担者
相続手続きには、書類の取得費用といった実費から、専門家への報酬まで様々な費用がかかります。
誰が負担するかで揉めないためには、費用ごとに一般的な負担者の考え方を理解しておくことが有効です。
費用負担の話し合いがまとまらない場合は、家庭裁判所での遺産分割調停に移行することもあり、その際は調停費用も発生します。
ここでは、主な費用別に一般的な負担者について解説します。
①戸籍謄本など書類取得の実費:遺産からの支払いや相続人全員で分担
相続手続きでは、被相続人の出生から死亡までの一連の戸籍謄本や、相続人全員の戸籍謄本、印鑑証明書など、多くの書類を取得する必要があります。
これらの書類取得にかかる実費は、手続き全体の基礎となる費用であるため、相続人全員で均等に分担するか、遺産の中から支払うのが一般的です。
金額としては数千円から数万円程度になることが多く、代表者が一旦立て替えて、後日遺産から精算するケースもよく見られます。
この方法であれば、各相続人の自己負担は実質0円となります。
②相続登記(不動産の名義変更)の費用:不動産を取得する相続人
土地や建物といった不動産を相続した場合、法務局で所有権移転登記(相続登記)を行う必要があります。
この手続きにかかる登録免許税や、司法書士に依頼した場合の報酬は、その不動産を実際に取得する相続人が負担するのが最も一般的です。
なぜなら、登記によって所有権という利益を得るのはその相続人だからです。
もし複数の相続人が共有で不動産を相続する場合は、持分に応じて費用を分担します。
なお、相続放棄をした人は、はじめから相続人ではなかったとみなされるため、登記費用を負担する義務はありません。
相続放棄については「相続放棄で借金は誰が払うのか」で詳しく紹介しています。
③相続税申告の税理士報酬:遺産の取得割合に応じた分担が一般的
遺産総額が基礎控除額を超える場合、相続税の申告と納税が必要です。
相続税申告を税理士に依頼した場合の報酬は、相続人全員に関わる費用であるため、各相続人が取得する遺産の割合に応じて分担する方法が最も公平で一般的とされています。
あるいは、遺産の中からまとめて支払うケースも多く見られます。
申告・納税は相続人それぞれが行う義務がありますが、税理士報酬の支払いについては、代表者が一旦全額を支払い、後から各相続人に請求するか、遺産から精算する方法がスムーズですす。
④遺産分割協議書の作成費用:相続人全員で分担
遺産分割協議書は、相続人全員の合意内容を証明する重要な書類です。
この書類の作成を司法書士や行政書士などの専門家に依頼した場合、その作成費用は相続人全員で均等に分担するか、相続分に応じて負担するのが一般的です。
この費用も、相続手続き全体に必要な経費と考えられるため、最終的に故人の遺産から精算されることも少なくありません。
誰が費用を負担するかについても遺産分割協議で話し合い、合意した内容を協議書に明記しておくと後のトラブルを避けられます。
⑤葬儀費用:基本的には喪主が負担するが遺産から支払うケースも多い
葬儀費用は誰が負担すべきか法律上の定めはありませんが、慣習的には葬儀を主宰した喪主が支払うケースが多く見られます。
しかし、葬儀費用は高額になることが多いため、喪主一人の負担が重くならないよう、相続人同士で分担したり、故人の遺産から支払ったりするケースが増えています。
故人の遺産から支払うことについて相続人全員の合意が得られれば、それが最も円満な解決方法の一つといえます。
香典は喪主への贈与とみなされるため、葬儀費用に充てた残りは喪主のものとするのが一般的です。
持ち出しを回避!故人の預貯金から相続費用を支払う具体的な方法
相続費用の支払いで、相続人が自己資金を一時的にでも持ち出すことを避けたいと考えるのは自然なことです。
故人の預貯金は、死亡が確認されると金融機関によって口座が凍結され、簡単には引き出せなくなります。
しかし、所定の手続きを踏むことで、遺産分割協議が終わる前でも費用を支払うために預貯金の一部を引き出すことが可能です。
親が認知症になった場合の口座凍結については「親が認知症になった場合の相続と口座凍結」で詳しく紹介しています。
遺産分割前に預貯金を引き出す「仮払い制度」を活用する
2019年7月の民法改正により、遺産分割前でも相続人が単独で被相続人の預貯金の一部を引き出せる「預貯金の仮払い制度」が創設されました。
この制度を利用すれば、葬儀費用や当面の手続き費用などを故人の遺産から支払うことができます。
引き出せる金額には上限があり、「相続開始時の預金残高×1/3×その相続人の法定相続分」または「一つの金融機関につき150万円」のいずれか低い方の金額までと定められています。
手続きには、戸籍謄本などの必要書類を金融機関の窓口に提出する必要があります。
遺産分割協議後に代表相続人が一括して精算する
より一般的な方法は、遺産分割協議を完了させた後に、相続手続きを進める代表者が一括して費用を精算するやり方です。
まず、遺産分割協議書を作成し、それに基づいて金融機関の口座凍結を解除し、故人の預貯金を代表相続人の口座に集めます。
その後、代表者が立て替えていた戸籍謄本の取得費用や専門家への報酬などをその口座から支払い、残った金額を遺産分割協議書の内容に従って各相続人に分配します。
この方法であれば、公平かつ透明性の高い精算が可能です。
相続費用の支払いで起こりがちなトラブルと回避策
相続費用の負担者をめぐっては、相続人間で意見が対立し、トラブルに発展することも少なくありません。
特に、誰かが費用を立て替えた場合や、非協力的な相続人がいる場合に問題が起こりがちです。
こうしたトラブルを未然に防ぐためには、事前に対策を講じておくことが重要です。
ここでは、よくあるトラブル例と具体的な回避策について解説します。
トラブル例①:代表者が立て替えた費用を精算してもらえない
相続手続きを円滑に進めるため、代表者となった相続人が戸籍謄本の取得費用や専門家への報酬などを一時的に立て替えることはよくあります。
しかし、費用負担について事前に明確な合意がないと、後から他の相続人に精算を求めても「支払うとは言っていない」「その専門家に依頼することに同意していない」などと支払いを拒否されるケースがあります。
口約束だけで進めてしまうと、後で「言った・言わない」の水掛け論になり、トラブルが深刻化する可能性があります。
トラブル例②:非協力的な相続人が費用の支払いを拒否する
相続人の中に、遺産分割協議に協力的でない人がいる場合、費用の支払いについても拒否されることがあります。
例えば、「自分は財産をあまりもらえないから費用は払いたくない」と主張したり、連絡を無視して話し合いに応じなかったりするケースです。
相続手続きは相続人全員の協力が必要なため、一人でも非協力的な人がいると、手続き全体が停滞してしまいます。
特に、費用の分担は全員の合意がなければスムーズに進みません。
【回避策】遺産分割協議書に費用負担について明記する
これらのトラブルを回避するための最も有効な対策は、遺産分割協議書に費用負担に関する事項を明確に記載することです。
「相続手続きに関する一切の費用(戸籍謄本等取得費用、専門家への報酬、登録免許税等)は、被相続人の相続財産である〇〇銀行の預金から支払う」といった具体的な条項を設けます。
そして、その内容について相続人全員が合意した証として、署名と実印の押印をします。
これにより、費用負担の合意が法的な効力を持つため、後の紛争を効果的に防ぐことが可能です。
家族が揉めない相続対策については「家族が揉めない相続対策」で詳しく紹介しています。
相続費用の負担割合で迷ったら専門家への無料相談がおすすめ
相続費用の負担割合や支払い方法について、相続人間での話し合いがまとまらない場合や、そもそもどのような費用がいくらかかるのか分からない場合は、相続の専門家に相談することをおすすめします。
専門家であれば、法的な知識と実務経験に基づき、それぞれの状況に応じた公平で円満な解決策を提案できます。
弊社では、相続に関する相談を何度でも、何時間でも無料で受け付けています。
相続に関する無料相談については「相続の無料相談窓口」で詳しく紹介しています。
費用負担に関するお悩みはもちろん、相続手続き全般について、まずはお気軽に専門家の意見を聞いてみてはいかがでしょうか。
よくある質問
ここでは、相続費用の負担に関して、多くの方が疑問に思う点についてQ&A形式で解説します。
Q. 立て替えた相続費用は経費として計上できますか?
相続税の計算上、経費として遺産総額から差し引ける(債務控除できる)費用と、できない費用があります。
葬儀費用は控除の対象です。
一方、相続登記の登録免許税や司法書士報酬、遺産分割協議書の作成費用などは、原則として控除の対象外となります。
専門家への報酬も基本的には控除できません。
Q. 相続放棄をした場合でも、何らかの費用を負担する必要はありますか?
原則として、相続放棄をした人は相続に関する一切の権利義務を失うため、相続費用を負担する必要はありません。
ただし、相続放棄をしても、次の相続人が財産の管理を始めるまでは管理義務が残る場合があります。
その期間に発生した管理費用(例:空き家の固定資産税など)は負担しなければならない可能性があります。
借金のある親の相続放棄については「借金のある親の相続放棄の判断ポイント」で詳しく紹介しています。
Q. 費用の支払いに応じない相続人がいる場合、どうすればいいですか?
まずは粘り強く話し合いを試みることが第一です。
それでも合意に至らない場合は、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てます。
調停では、調停委員を介して遺産の分割方法だけでなく、費用の負担についても話し合うことが可能です。
調停でも話がまとまらなければ、審判手続きに移行し、裁判官が判断を下します。
まとめ
相続費用を誰が払うかについて法律上の明確なルールはなく、相続人同士の話し合いで決定するのが基本です。
主な負担方法には、故人の遺産から支払う、相続分に応じて分担する、財産を取得した人が個別に支払う、という3つのパターンがあります。
どの方法を選択するかは、費用の種類や相続人の状況によって異なります。
後のトラブルを防ぐためには、決定した負担方法を遺産分割協議書に明記することが極めて重要です。
もし費用負担で揉めてしまった場合や、手続きに不安がある場合は、専門家に相談することを検討してください。



