
被相続人が生きているうちに相続放棄をすることは、法律上認められていません。
将来の相続トラブルや借金を回避したい場合、生前にできることには限りがありますが、遺留分の放棄や遺言書の作成といった代替策は存在します。
この記事では、生前の相続放棄ができない理由と、その代わりに検討できる具体的な方法を解説します。
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結論:被相続人の生前に相続放棄の手続きはできない
相続放棄は、被相続人が亡くなり相続が開始された後に、家庭裁判所で行う法的な手続きです。
したがって、親などが存命のうちに「将来発生するであろう相続」をあらかじめ放棄することはできません。
相続権は被相続人の死亡によって初めて具体的に発生する権利であるため、発生していない権利を事前に放棄する手続きは法律上想定されていません。
なぜ生前の相続放棄は法律で認められていないのか
生前の相続放棄が認められない主な理由は、相続権が被相続人の死亡によって初めて発生する権利だからです。
また、被相続人が生きている間は財産状況が大きく変動する可能性があり、将来の不確定な状況に基づいて相続人に権利の放棄を強いることは、相続人の意思を不当に束縛しかねません。
相続人の保護と法律関係の安定を図る観点から、相続放棄は相続開始後に、相続人の自由な意思で行うべきものとされています。
「相続を放棄する」という念書や合意書に法的効力はない
被相続人の生前に、特定の相続人が「私は相続を放棄します」という内容の念書を書いたり、他の相続人と合意書を取り交わしたりしても、法的な効力は一切ありません。
これらの書類はあくまで当事者間の私的な約束事に過ぎず、法的に相続権を失わせる効果はないため無効です。
借金などのマイナスの財産も引き継ぐ義務は残るため、相続開始後、改めて家庭裁判所で正式な相続放棄の手続きを行う必要があります。
相続放棄の代わりに生前にできる4つの対策

被相続人が生きている間に相続放棄はできませんが、それに近い目的を達成するために、生前にできる対策はいくつかあります。
将来の相続に備えて、法的に有効な準備を進めることが重要です。
具体的には、遺留分の放棄、遺言書の作成、生前贈与、生命保険の活用といった方法が考えられます。
【唯一生前に可能】家庭裁判所で「遺留分」を放棄する手続き
生前に家庭裁判所を通じて行える唯一の手続きが「遺留分の放棄」です。
遺留分とは、兄弟姉妹以外の法定相続人に保障された最低限の遺産取得分のことです。
この権利は、家庭裁判所の許可を得ることで生前に放棄できます。
遺留分放棄の手続きには、申述書や戸籍謄本などの書類を準備し、家庭裁判所に申し立てます。
ただし、遺留分を放棄しても相続権自体は失われず、借金などのマイナスの財産を相続する義務は残る点に注意が必要です。
遺言書を作成してもらい相続させない旨を記載する
被相続人に遺言書を作成してもらい、特定の人に財産を相続させないようにする方法も有効です。
例えば「長男Aには遺産を一切相続させない」といった内容や、「全ての遺産を長女Bに相続させる」という内容の遺言を残してもらうことで、相続させたくない人への遺産の承継を防ぐことが可能です。
ただし、この場合でも遺留分を侵害された相続人は「遺留分侵害額請求」を行う権利があるため、トラブルに発展する可能性は残ります。
生前贈与によって特定の相続人に財産を渡しておく
被相続人が生きているうちに、特定の相続人や第三者に財産を贈与しておく方法もあります。
生前贈与と相続では税金の扱いが異なりますが、計画的に財産を移転させることで、渡したい相手に確実に財産を残せます。
年間110万円までの贈与であれば贈与税はかかりませんが、高額な贈与を受けたり、相続開始前一定期間内に行われた贈与分は、相続財産に加算されたり遺留分の計算対象になったりする場合があります。
事前に専門家に贈与して問題ないか確認することをおすすめします。
生命保険の受取人を指定して財産を残す方法
生命保険の死亡保険金は、原則として受取人固有の財産とみなされ、遺産分割の対象にはなりません。
この仕組みを利用し、被相続人が保険契約者および被保険者となり、財産を渡したい特定の人を受取人に指定しておくことで、他の相続人の影響を受けずに確実に財産を渡すことが可能です。
また、相続税の非課税枠が適用されるメリットもあります。
被相続人の借金を相続したくない場合の生前対策
相続放棄を考える最も大きな理由の一つが、被相続人の借金です。
生前の相続放棄ができない以上、借金を相続しないためには別の対策を検討する必要があります。
根本的な解決を目指すのであれば、相続が発生する前に被相続人自身が行動を起こすことが最も効果的です。
本人に債務整理(自己破産など)をしてもらう
被相続人に多額の借金がある場合、最も根本的な解決策は、本人が生きているうちに債務整理を行うことです。
具体的には、自己破産や任意整理、個人再生といった手続きが考えられます。
これらの手続きによって借金そのものを減額または免除してもらえれば、将来相続人が借金を引き継ぐリスクをなくすことが可能です。
相続問題の解決だけでなく、被相続人本人の生活再建にもつながる有効な整理方法です。
著しい非行がある場合に相続権を剥奪する「推定相続人の廃除」
推定相続人の廃除とは、被相続人に対して虐待や重大な侮辱、その他の著しい非行があった相続人の相続権を、被相続人の意思に基づいて家庭裁判所の手続きを経て剥奪する制度です。
これは相続放棄とは異なり、被相続人側から特定の相続人の権利を失わせる手続きです。
廃除が認められれば、その相続人は遺産を一切相続する権利を失います。
相続開始後(死後)に行う正式な相続放棄の手続き

生前にできる対策を検討しても、最終的に借金などのマイナスの財産を相続しないためには、被相続人の死亡後に家庭裁判所で相続放棄の手続きを行う必要があります。
生前の約束や念書では効力がないため、必ず法律に定められた方法で手続きを完了させなければなりません。
相続放棄は「相続を知った日から3ヶ月以内」の期限に注意
相続放棄の手続きで最も重要なのが、「自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内」という申述期間です。
この期間は「熟慮期間」と呼ばれ、この期間内に家庭裁判所へ相続放棄の申述を行う必要があります。
もし3ヶ月の期限を過ぎてしまうと、原則として相続を単純承認したとみなされ、プラスの財産もマイナスの財産もすべて引き継ぐことになるため、注意が必要です。
生前の相続放棄に関するよくある質問
生前の相続放棄に関して、多くの人が抱く疑問は共通しています。
ここでは、特によくある質問とその回答をまとめました。
具体的な状況に応じて最適な対応は異なるため、不安な場合は弁護士などの専門家への相談も検討してください。
Q. 親と疎遠で一切関わりたくない場合、どうすればよいですか?
親と疎遠でも法律上の親子関係はなくならないため、相続権は発生します。
関わりたくない場合でも、親の死亡を知った日から3ヶ月以内に家庭裁判所で相続放棄の手続きが必要です。
この手続きをしないと、知らないうちに借金を相続してしまう可能性があります。
Q. 遺留分を放棄すれば、親の借金も引き継がなくて済みますか?
いいえ、遺留分を放棄しても借金の相続義務はなくなりません。
遺留分はプラスの財産に対する最低限の取り分を主張する権利であり、借金などのマイナスの財産を引き継ぐ義務とは別のものです。
借金を相続しないためには、相続開始後に相続放棄の手続きが必要です。
Q. 親族間で「相続しない」と口約束した場合、撤回は可能ですか?
はい、可能です。
家族や兄弟間で行った生前の口約束や念書には法的な拘束力がないため、いつでも撤回できます。
法的に有効な意思表示は、あくまで被相続人が亡くなった後に行う相続放棄や遺産分割協議となるため、生前の約束に縛られる必要はありません。
まとめ
被相続人が生きているうちの相続放棄は、法律上できません。
相続権は死亡によって初めて発生する権利だからです。
生前の念書や合意も無効であり、借金を避けるためには、相続開始後3ヶ月以内に家庭裁判所で正式な手続きを行う必要があります。
生前にできる対策とは、遺言書の作成依頼や遺留分の放棄など、あくまで間接的な方法に限られます。
これらの違いを正しく理解し、適切な準備を進めることが重要です。


