
身近な方が亡くなり、悲しみに暮れる中で直面するのが葬儀費用の問題です。
手元に資金がない場合や、故人に借金があり相続放棄を考えている場合、支払いはさらに切実な悩みとなります。
しかし、適切な手順を踏めば、故人の遺産から費用を捻出したり、公的制度を利用したりすることが可能です。
この記事では、葬儀費用が払えないときの具体的な対処法と、相続放棄を検討している際の法的な注意点を解説します。
葬儀費用が払えない場合の5つの対処法|まずは全体像を把握しよう
葬儀費用が支払えず困った際には、主に5つの対処法が考えられます。
まずは故人の預貯金から支払う方法を検討しますが、相続放棄を視野に入れている場合は特に注意が必要です。
次に、国や自治体が設けている公的制度の活用も有効な手段となります。
また、葬儀プランそのものを見直し、費用を安く抑える工夫も求められます。
現金での一括払いが難しい場合は、分割払いやローンといった支払い方法も選択肢の一つです。
最後に、誰が費用を負担するのかを明確にすることも、親族間のトラブルを避けるために重要です。
【対処法1】故人の預貯金から葬儀費用を支払う方法
手元に現金がない場合、まず検討するのが故人の預貯金から支払う方法です。
故人が亡くなると銀行口座は凍結されてしまいますが、2019年の民法改正により、一定の条件下であれば口座からの引き出しが可能になりました。
この「預貯金の仮払い制度」を利用すれば、遺産分割協議が終わる前でも葬儀費用など当面の支払いに充てられます。
ただし、相続放棄を考えている場合は、この制度の利用が相続を承認したとみなされるリスクもあるため、慎重な判断が求められます。
凍結された故人の口座から出金できる「預貯金の仮払い制度」とは
「預貯金の仮払い制度」とは、遺産分割が完了する前でも、各相続人が単独で被相続人名義の預貯金の一部を引き出せる制度です。
人が亡くなったことを金融機関が知ると、相続トラブルを防ぐために口座は凍結され、入出金が一切できなくなります。
しかし、それでは葬儀費用など急な支払いに困るため、この制度が設けられました。
手続きは、故人の口座がある銀行などの金融機関窓口で行い、必要な書類を提出することで、一定額の払い戻しを受けられます。
仮払い制度で引き出せる金額の上限と手続きの流れ
預貯金の仮払い制度を利用して引き出せる金額には上限が定められています。
上限額は「相続開始時の預貯金額×3分の1×申請する相続人の法定相続分」という計算式で算出され、さらに一つの金融機関からは150万円までと決められています。
手続きは、まず故人の戸籍謄本や除籍謄本、申請者の本人確認書類と印鑑証明書など必要書類を準備します。
次に、金融機関の窓口で払い戻しの申請手続きを行い、書類に不備がなければ後日指定の口座に振り込まれるか、現金で払い戻されます。
相続放棄を検討中に故人の遺産を使う際の注意点
故人に多額の債務がある場合、相続放棄を検討することがあります。
しかし、故人の遺産から葬儀費用を支払う行為は、民法で定められた「法定単純承認」とみなされる可能性があります。
これは、相続財産を処分・消費することで、相続する意思があると判断される制度です。
例えば、故人の家や車を売却したり、預貯金を葬儀費用以外で使ったりすると、相続放棄が認められなくなる恐れがあります。
墓石の購入費用なども、葬儀費用とはみなされず財産の処分と判断されることがあるため注意が必要です。
高額すぎる葬儀は「相続する意思がある」と見なされる可能性
故人の遺産から葬儀費用を支払う場合、その金額が社会通念上ふさわしい範囲を超えていると、財産の処分とみなされ相続放棄ができなくなるリスクがあります。
過去の判例では、故人の社会的地位や財産状況に照らして「身の丈に合った」葬儀であれば、遺産から支払っても問題ないとされる傾向にあります。
しかし、必要以上に豪華な祭壇を設けたり、参列者の人数に見合わない大規模な葬儀を行ったりすると、相続財産を不当に費消したと判断され、相続の意思があったと解釈される可能性があるため注意が必要です。
故人の遺産から支払ってもよい葬儀費用の具体的な範囲
相続放棄を前提とする場合、故人の遺産から支払えるのは、葬儀に必要不可欠と認められる費用に限られます。
具体的には、遺体の運搬費用、火葬料や埋葬料、通夜と告別式にかかる最低限の費用(会場費、祭壇、棺、遺影など)、そして僧侶へのお布施や読経料などが含まれます。
これらの費用は、社会的儀式として執り行うために必要な支出と判断されやすいため、遺産から支払っても相続放棄に影響が出る可能性は低いと考えられています。
支払い内容を明確にするため、領収書は必ず保管しておきましょう。
香典返しや法事費用は故人の遺産から支払えない
葬儀に関連する費用の中でも、故人の遺産から支払うと問題になるものがあります。
代表的なのが香典返しです。
香典は故人の財産ではなく、喪主個人への贈与とみなされるため、その返礼である香典返しを遺産から支払うことはできません。
また、墓石や仏壇の購入費用、四十九日や初七日などの法事にかかる費用も、直接的な葬儀費用とは認められません。
これらの費用を遺産から支出すると、財産の処分と判断され、相続放棄が認められなくなる可能性があるため、喪主の自己資金で賄う必要があります。
支払いの証拠になる領収書や明細書は必ず保管する
故人の遺産から葬儀費用を支払った場合は、その証拠となる領収書や明細書を必ず保管してください。
これは、後日、家庭裁判所に相続放棄の申述をする際や、故人の債権者から問い合わせがあった際に、葬儀費用として社会通念上妥当な範囲で支出し、財産を不当に処分していないことを証明するために不可欠です。
誰が、いつ、何のために、いくら支払ったのかを客観的に示せるようにしておくことで、相続放棄の手続きをスムーズに進め、不要なトラブルを未然に防ぐことにつながります。
【対処法2】費用負担を軽減する公的制度を活用する
どうしても葬儀費用を捻出できない場合、国や自治体の公的制度を利用できる可能性があります。
これらの制度は、経済的に困窮している方や、特定の健康保険に加入していた方を対象に、葬儀費用の負担を軽減することを目的としています。
代表的なものに、生活保護制度の一環である「葬祭扶助制度」や、健康保険から給付される「葬祭費」「埋葬料」があります。
いずれも申請が必要なため、自分が対象となるかどうかを確認し、忘れずに手続きを行うことが重要です。
生活保護受給者などが利用できる「葬祭扶助制度」
葬祭扶助制度は、生活保護法に基づき、経済的な理由で葬儀を行えない場合に自治体が費用を支給する制度です。
対象となるのは、遺族が生活保護を受給しているなど困窮している場合や、故人に身寄りがなく遺産も残されていない場合です。
この制度を利用すると、原則として自己負担0円で葬儀を行えます。
ただし、支給されるのは火葬や埋葬など最低限必要な費用のみで、通夜や告別式といった儀式は行えません。
申請は、原則として葬儀を行う前に、故人の住民票があった地域の福祉事務所へ行います。
健康保険から受け取れる「葬祭費」や「埋葬料」の給付
故人が加入していた健康保険の種類に応じて、葬儀を行った人に給付金が支給されます。
故人が国民健康保険または後期高齢者医療制度の加入者だった場合、葬祭費として自治体から3万円から7万円程度が支給されます。
一方、会社員などで協会けんぽや組合健保に加入していた場合は、埋葬料として一律5万円が支給されます。
これらの給付金は、自動的に支払われるものではなく、市区町村役場や健康保険組合などへの申請が必要です。
申請期限は2年以内となっているため、忘れずに手続きをしましょう。
【対処法3】葬儀費用そのものを安く抑える3つの方法
葬儀費用はプランや内容によって大きく変動するため、工夫次第で費用を大幅に抑えることが可能です。
支払いそのものが困難な場合は、まず葬儀の形式を見直すことから始めましょう。
宗教的な儀式を省略し、必要最低限の内容に絞ることで、費用を大きく削減できます。
また、自治体が提供する割安な葬儀サービスを利用したり、複数の葬儀社から見積もりを取って比較検討したりすることも、賢く費用を抑えるための有効な手段です。
必要最低限の儀式に絞った「火葬式・直葬」を選択する
火葬式・直葬は、通夜や告別式といった宗教的な儀式を行わず、ごく限られた親族のみで火葬場へ行き、火葬のみを執り行うシンプルな葬儀形式です。祭壇の費用や会場費、会食費などがかからないため、一般的な葬儀に比べて費用を抑えることができます。
費用は葬儀社や地域によって異なりますが、経済的な負担を軽減したい場合に検討される選択肢の一つです。ただし、菩提寺がある場合は、事前に相談しておかないと納骨を断られる可能性もあるため注意が必要です。
自治体が主体となって行う「市民葬・区民葬」を利用する
市民葬や区民葬は、自治体と提携している葬儀社が、比較的安価な料金で提供する葬儀プランです。
その自治体の住民(故人または喪主)であれば誰でも利用でき、祭壇や棺など、葬儀に必要な基本的な項目がセットプランとして定められています。
一般的な葬儀社のプランよりも割安な価格設定になっていることが多いのが特徴です。
ただし、プラン内容はあらかじめ決められており、内容の変更やオプションの追加が制限される場合があります。
利用を希望する場合は、お住まいの市区町村役場の窓口に問い合わせてみてください。
複数の葬儀社から相見積もりを取って内容を比較検討する
葬儀の費用やサービス内容は、葬儀社によって大きく異なります。
そのため、1社だけで決めずに、必ず複数の葬儀社から見積もりを取りましょう。
同じような内容の葬儀でも、数十万円の差額が生じることも珍しくありません。
見積もりを比較する際は、総額だけでなく、含まれるサービス内容や追加料金の有無を詳細に確認することが重要です。
これにより、自身の希望や予算に最も合った葬儀社を選ぶことができ、不必要な出費を抑えることにもつながります。
【対処法4】現金一括払いが難しい場合の支払い方法
葬儀費用は高額になりがちで、現金での一括払いが難しいケースも少なくありません。
しかし、最近では支払い方法も多様化しており、手元にまとまった資金がなくても葬儀を行える選択肢が増えています。
クレジットカードの分割払いやリボ払いに対応している葬儀社を選んだり、信販会社が提供する葬儀専用のローンを利用したりする方法があります。
これらの方法を活用することで、当面の支払いの負担を軽減し、計画的に返済していくことが可能です。
クレジットカードの分割払いやリボ払いに対応した葬儀社を探す
近年、葬儀費用の支払いにクレジットカードを利用できる葬儀社が増えています。
カード払いであれば、手元に現金がなくても支払いを済ませることができ、ポイントが貯まるというメリットもあります。
また、一括での支払いが難しい場合には、分割払いやリボ払いを選択することで、月々の支払い負担を軽減できます。
ただし、すべての葬儀社がカード払いに対応しているわけではないため、葬儀社を選ぶ際に必ず確認が必要です。
また、分割払いやリボ払いには手数料や金利が発生する点も理解しておきましょう。
信販会社が提供する「葬儀ローン」の利用を検討する
葬儀費用に特化したローンも選択肢の一つです。これは、信販会社や金融機関が提供する目的別ローンであり、葬儀社を通じて申し込めるケースもあります。一般的に、葬儀ローンにはいくつかの種類があり、それぞれ金利や審査の傾向が異なります。例えば、信販会社の葬儀ローンは銀行のフリーローンと比較して金利が高めである一方、審査は比較的スピーディーな傾向があります。銀行のフリーローンは金利が低い傾向にありますが、審査に時間がかかる場合があります。また、労働金庫や信用金庫の葬儀ローンは金利が低い傾向にあるものの、審査は厳しい傾向があります。
まとまった現金の準備が難しく、クレジットカードの利用も難しい場合の選択肢となります。ただし、ローンである以上、金利を含めた返済計画をしっかりと立て、無理のない範囲で利用することが重要です。
【対処法5】誰が支払うべきか明確にする
葬儀費用を誰が支払うべきかという問題は、親族間のトラブルに発展しやすい点の一つです。
法律で「この人が支払わなければならない」という明確な定めはありませんが、一般的には葬儀を主宰した喪主が負担するケースが多く見られます。
しかし、喪主が全額を負担しなければならないわけではなく、相続人同士で話し合って分担することも可能です。
重要なのは、誰がどのように費用を負担するのかを事前に明確にし、全員が納得できる形を決めておくことです。
法律上は喪主が支払うのが一般的
葬儀費用について、民法など法律には誰が支払うべきかという直接的な規定はありません。
過去の判例では、葬儀費用は葬儀を主宰する者、つまり喪主が負担するのが相当とされています。
これは、喪主が葬儀社との契約当事者となり、葬儀全体の責任者として振る舞うことが一般的であるためです。
したがって、法的な観点からは、まずは喪主が支払い義務負うと考えるのが通例です。
ただし、これはあくまで原則であり、必ずしも喪主が全額を自己資金から支払う義務を負うわけではありません。
相続人同士で話し合って費用を分担することも可能
喪主が葬儀費用を支払うのが一般的ですが、実際には相続人同士で費用を分担するケースも多くあります。
例えば、故人が残した遺産から費用を支出することについて相続人全員で合意したり、各相続人が法定相続分に応じて費用を出し合ったりする方法が考えられます。
また、受け取った香典を費用の支払いに充てることも一般的です。
誰がどのように負担するのかについて法律上の決まりはないため、相続人全員で十分に話し合い、後々トラブルにならないよう合意しておくことが重要です。
複雑な手続きは専門家へ相談|何度でも無料でサポート
相続放棄の手続きや預貯金の仮払い制度の利用は、法律の知識が必要で複雑な場面も少なくありません。
特に、故人が遺言書を残している場合や、生前のうちに十分な準備ができていなかったケースでは、判断に迷うことも多いでしょう。
手続きを誤ると、意図せず相続を承認したとみなされるリスクもあります。
このような複雑な手続きや判断が難しい問題に直面した際は、一人で抱え込まずに司法書士や弁護士などの専門家へ相談することをおすすめします。
法的な観点から最適な解決策を提案し、円滑な手続きをサポートします。
よくある質問
ここでは、葬儀費用の支払いと相続に関するよくある質問について回答します。
香典の扱いや故人のクレジットカードの使用、立て替えた費用の請求など、多くの方が疑問に思う点を取り上げます。
香典を葬儀費用にあてても相続放棄はできますか?
はい、問題ありません。
香典は法律上、故人の財産(遺産)ではなく、葬儀の主宰者である喪主への贈与とみなされます。
そのため、喪主が受け取った香典を自身の財産として葬儀費用に充てても、遺産を処分したことにはならず、相続放棄の手続きに影響はありません。
故人のクレジットカードで葬儀費用を支払っても問題ありませんか?
いいえ、絶対に使用してはいけません。
クレジットカードは名義人本人しか利用できず、亡くなった方のカードを使うことは契約違反にあたります。
また、故人の債務を新たに発生させる行為とみなされ、相続を承認した(単純承認)と判断される可能性が非常に高いため、相続放棄ができなくなります。
立て替えた葬儀費用を後から他の相続人に請求できますか?
相続人全員の合意があれば請求できます。
法律上、他の相続人に支払いを強制する権利は明確に定められていませんが、葬儀費用を相続財産から支払うことや、相続分に応じて分担することについて話し合い、合意が得られれば可能です。
トラブルを避けるためにも、支払う前に分担方法を相談しておくことが望ましいです。
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まとめ
葬儀費用が払えない場合でも、故人の預貯金の仮払い制度や葬祭扶助制度などの公的支援、葬儀内容の見直しによる費用削減など、対処法は複数存在します。
特に故人に借金があり相続放棄を検討している場合は、遺産の取り扱いに細心の注意が必要です。
社会通念から逸脱した高額な葬儀費用を遺産から支払うと、相続を承認したとみなされるリスクがあります。
葬儀費用の支払い方法や相続手続きで判断に迷った際は、一人で悩まず専門家に相談し、法的に正しい手続きを進めることが重要です。



